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尺度としての「お金」

データサイエンス の立場では、 「お金」は尺度の一種と言えます。 測定 の対象になります。 しかし、「お金」は特殊な尺度です。

尚、お金を論じる分野としては、「貨幣論」がありますが、 ここではそういう難しそうな話は考えていません。

ここでは、「お金」という尺度を扱っていますが、 尺度全般の弊害については、 尺度の独り歩き に書きました。

尺度としての「お金」の性質

尺度としての「お金」には、いくつかの特徴的な性質があります。 そして、これらが環境評価や環境影響評価の落とし穴にもなっています。

交換可能性

お金は、いろいろなものと交換できてしまいます。 「円」や「ドル」等の同じ単位で比べられるためです。

環境経済学 では、環境の複雑性や生物の多様性をお金で評価しようとする場合があります。 これは、「交換可能性で 環境問題 を解決しようとしている。」と言えそうです。

交換は、等価交換が前提になっていますが、実際はそうでない場合も多々あると思います。 悪質な場合はもちろんです。 不適切な値段のものを、売るとか。。。
下記の「時間依存性」が関係する場合は、悪意がなくても等価交換の前提が成立しなくなっています。

それともうひとつ、「同じ値段のものは、同じなのか?」という根本的な問題があります。 お金という尺度の上では同じですが、違う物の値段は、たいてい値段の付け方も違います。 値段の付け方が同じだとしても、ある基準の上で同じなだけで、その基準以外は見ていません。

時間依存性

お金による尺度は便利ですが、 厳密に言うと、ある物の値段は瞬間的な値です。 値段というのは、時間に依存しています。 簡単な例は、生鮮食料品です。 とれたてが一番高く、だんだん値段が下がっていきます。 腐ってしまえば、食べ物としての値段はゼロになります。

食品なら値札を変えることによって、「等価交換」を維持できるかもしれませんが、 環境の場合、一度評価した値は、簡単には変えられません。

これは、「環境のエントロピー的な性質を、お金で測ることができない」とも言えます。

価値観依存性・知識量依存性

ある物の値段がいくらがふさわしいかという判断は、その人の価値観や、知識量に依存します。 例えば、価値観に依存していると言うのは、食べ物の味にこだわらない人が値段を付けると、 味に差があっても値段に差がつかないことです。 価値観は個人差が大きいですし、判断した時代の思想にも影響されます。 知識量の差と言うのは、 その物の危険性や、自分への影響度を知っているのかどうか、 知っているとしても、どの程度知っているのかで値段が変わってしまうことです。

「環境」に値段を付ける場合、価値観依存性や知識量依存性の影響が、特に大きいように思います。

非可逆性

時間依存性がなく、交換可能性だけの場合は、再交換が可能です。 これを「可逆」と言います。 再交換の典型例は「返品」です。 同じ値段で返品が可能な場合は、「可逆」と言えます。

生鮮食料品の例で言えば、「可逆」なのは、買った直後位です。 時間依存性があるので、 すぐに「非可逆」になります。

「環境」も、もちろん「非可逆」です。 しかし、環境問題の解決を目的として、お金を解決の手段にする場合、 「非可逆」が忘れられている場合が多々あるように思います。

環境影響評価と環境評価で、「お金」を尺度にすると

このサイトには、 環境影響評価と環境評価 の2つがあります。 環境評価には、人間が環境から受ける「利益」の評価を、目的としているものがあります。 環境影響評価には、人間が環境から受ける「利益の低下」の評価を、目的としているものがあります。

「ものがあります。」という語尾で書きましたが、 利益の評価が、主流と言えるかもしれません。 「利益の対象」として環境を見る視点です。 人間と環境のつながりは、利益だけではないはずですが。。。

「利益」なので、お金で評価されることもよくあります。 しかし、尺度としての「お金」には、問題があります。 環境問題の防止や軽減のための評価なのに、この評価が原因となる環境問題もあるような気がします。

利益中心で環境を最適化しようとすると

「利益」にしても、「お金」にしても、これらは人間の都合だけを考えた尺度です。 これらを尺度にすると言うことは、これらの尺度による環境の 最適化 を人間がするということです。

うまく行けば、人間に都合の良い環境ができるかもしれません。 しかし、これには2つの問題があります。

ひとつめの問題は、人間がお金という尺度を使いこなせている訳ではないことです。 不平等を生んだりしています。

ふたつめの問題は、「利益」や「お金」という尺度が、 自然環境のルールを無視して設定されることです。 人間に都合の良い環境を作ろうとしても 自然環境のルールを無視していたら、うまく行く保証はありません。

生態系サービス

生態系サービスとは、 環境からヒトへ の様々な利益のことです。 生態系サービスは、ヒトが 生態系 を守らなければならない理由として挙げられることがあります。

生態系サービスの例は、生態系の食料や薬の資源としての価値や、森林の癒しの効果です。

特に、生物多様性を守る理由が論じられる時は、 「現在は薬としての効果がわからない生物種が、もしかしたら、 未来には薬として利用できるかもしれない。」という理由が、 現在、ヒトにとって利益があるかわからない生物種を守る理由になっています。

生態系サービスの論じられ方について一概に言えない部分もありますが、 現在、ヒトにとって利益がなくても、未来のために守らなければならないと言われる点は良いものの、 その理由が未来に利益があるかもしれないことへの期待になっているケースには、 違和感があります。

利益中心ではない自然の見方

利益中心ではない自然の見方として、このサイトには、 風水環境心理学 による環境評価があります。


因子分析

様々な尺度を「お金」という尺度に焼き直す方法は、 イメージ的には 因子分析 と同じアイディアです。

因子分析は2つの因子に様々な因子を帰着させる場合が多いようですが、 「お金」で評価する場合は、たったひとつの因子に帰着させています。 (第2の因子を作るとしたら、何になるんでしょうか?エントロピーでしょうか?)



参考文献

測れるもの 測れないもの」 高田誠二 著 裳華房 1998
測定 全般へ著者の考えがまとまっています。
「予兆」を見つけるためのパラメーターとして、エントロピー(熱、物質、情報の)を挙げています。




順路 次は 経済系と生態系の融合

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