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過程追跡

過程追跡(Process Tracing)は、社会学などで開発された方法です。

シャーロックホームズが例に出されますが、1回しか起きていないような現象についての、 因果推論 の方法です。

簡単に言えば、必要条件、十分条件に当てはまるかどうかを確認し、仮説を裏付ける方法です。

必要条件や十分条件を確認すること自体は、 ロジカルシンキング のひとつで、広く一般的にされています。

過程追跡では、単に必要条件か十分条件か、ということだけではなく、それらが「当てはまる・当てはまらない」の場合に、 どのような方向性で調査を進めるべきかのガイドも示しています。

過程追跡の手順

過程追跡では、まず、事実(証拠)集めと、仮説の設定の2つがあります。

次に、事実が仮説に対して、必要条件なのか、十分条件なのかを検証します。

必要条件・十分条件を区別しないで、このような事実と仮説の関係を検証すると、仮説を確定できる段階ではないのに「これで解決!」となったり、 仮説が成り立たないのに「この仮説の可能性はまだ残っている」となったりしがちです。 このガイドを使うと、物事を明確に考え易くなります。

必要条件か、十分条件か、ということの組合せで4通りの場合があるので、そのどれなのかを確認します。 過程追跡では、4通りに対して、考え方のガイドがあります。

必要条件かつ十分条件の時

「Doubly Decisive Test:二重決定的」と呼ばれています。 もっとも強い事実です。

当てはまる場合、仮説を確定します。 他の仮説を排除します。

当てはまらない場合、仮説は排除します。

十分条件のみの時

「Smoking Gun Test:煙の出ている銃」と呼ばれています。

当てはまる場合、仮説を確定します。

当てはまらない場合、仮説は排除しません。

必要条件のみの時

「Hoop Test:輪」と呼ばれています。

当てはまる場合、仮説を確定しません。

当てはまらない場合、仮説は排除します。

必要条件でも十分条件でもない時

「Straw in the Wind Test:風の中の藁(わら)」と呼ばれています。

当てはまる場合、仮説を確定しません。

当てはまらない場合、仮説は排除しません。

判断の仕方

必要条件なのか、十分条件なのかの判断は、分析者がします。 他人も納得できる判断をする必要があります。

未知の現象の場合は、判断できないです。 例えば、「煙の出ている銃」という事実に対して、「銃を撃った直後」ということが連想できない場合は、判断できないです。



「ならば」や「だから」の多義性

参考文献

PROCESS TRACING」 intrac 2017
過程追跡のステップが解説されています。
https://www.intrac.org/wpcms/wp-content/uploads/2017/01/Process-tracing.pdf


Understanding Process Tracing」 David Collier 著 2011
シャーロックホームズの“Silver Blaze”を例にしています。
https://polisci.berkeley.edu/sites/default/files/people/u3827/Understanding%20Process%20Tracing.pdf


社会科学のパラダイム論争 2つの文化の物語」 ゲイリー・ガーツ, ジェイムズ・マホニー 著 勁草書房 2015
意味論も含めて因果を論じている中に、過程追跡も方法として出ています。
研究の仕方についての、論争の歴史が解説されています。


社会科学の方法論争 多様な分析道具と共通の基準」 ヘンリー・ブレイディ, デヴィッド・コリアー 編 勁草書房 2014
研究デザインの方法のひとつとして、過程追跡があります。
冷戦や第一次世界大戦を題材とした話があります。


因果過程追跡の基礎 経営革新事例の即応研究法」 田村正紀 著 白桃書房 2023
おそらく、過程追跡の日本語の専門書としては唯一です。
原因と結果の概念を、どのように考えたらよいのかが解説されています。




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