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工場物理学(Factory Physics)

工場物理学は、「生産活動の中で起きるばらつき」という、工場ならではの現象を、原理原則に基づいて数式で表現して、それを「法則(Law)」としています。 一般的な物理学では、こうしたことを自然現象に対してしますので、「工場物理学」という名前にしたようです。

物理学では、力、熱、エネルギー、電気、流体、といったものを扱っていて、それらは生産活動でなくてはならないものですが、 そうしたものは工場物理学の対象になっていません。 工場物理学の「物理学」というのは、 数理モデリング に近い意味になっています。

待ち行列の応用

工場物理学では、生産活動の中で起きるばらつきについて、 待ち行列 が混雑を扱う方法に着目して、待ち行列の理論を応用しています。

CONWIP

CONWIPは、「COMNstant Work In Process」の略で、工場物理学で一番良いとしている生産方式の理論です。

工場では、製品(ロット)は、複数の工程を通って、完成します。 最後の工程が終わったら、最初の工程に新しい製品を投入するのが、CONWIPの方式です。 工場の中のロット数は一定になります。

CONWIPは、かんばん方式で有名なプル型の生産方式の一種ですが、シンプルなプル型です。
CONWIP

名称について

上記のように、 「物理学」と言えば、力、熱、エネルギー、電気、流体といった「物」を扱います。

「工場物理学」という名称について、「物理学ではないのでは?」という意見があるかもしれませんが、生物物理学や経済物理学は、 物理学の一分野として、既に数十年の歴史を持つので、「工場物理学」という名称にも特に問題はないと、筆者は考えています。



参考文献

Factory Physics」 Wallace J. Hopp, Mark L. Spearman 著 Waveland Pr Inc 2011
筆者が読んだのは第3版ですが、第1版は、1996年に発刊されています。720ページの大著です。
第1部:工場物理学の背景、第2部:工場の物理、第3部:実践の原則、の3部構成です。
第1部では、歴史の説明です。 工場を改善するための方法論は昔からあるけれども、科学的な(システマチックな)理論立てでないために、うまく行きにくいこと、 また、トヨタの大野氏のような天才が社内にいれば良いが、そのような天才は限られていることの2点から、 科学的な理論で作られた工場物理学が必要としています。
第2部は、工場物理学の核心部分です。 生産活動のどのような行動がばらつきの原因になっているのかや、 そのばらつきと生産の時間(サイクルタイム、リードタイム、スループット、等)の関係がどのようになっているのかの数式が、 導出されています。
工場物理学は、工場で起きる変動を数式で表していますが、第2部の最後では、変動を小さくする方法として、 SPC(統計的工程管理)シックスシグマ を紹介しています。 この延長で、不良品に対して作業をやり直した場合の影響の定式化もあります。
第3部は、計画の立て方や、管理の仕方について、従来のものではなく、工場物理学をベースにした方法を解説しています。


現代オペレーションズ・マネジメント IoT時代の品質・生産性向上と顧客価値創造」 圓川隆夫 著 朝倉書店 2017
第4章が工場物理学の解説で、約20ページを使って紹介しています。 上記の「Factory Physics」という本は、複数の法則を中心にして、様々なことが書いてある本ですが、この本では、工場物理学のエッセンスはCONWIPとしてまとめていて、とてもわかりやすいです。
変動によって、待ちがどんどん増大することのシミュレーションがあります。
プッシュ型、プル型(かんばん方式)、CONWIPの3者を比較した時に、CONWIPが一番良い。
プッシュ型:変動によって、仕掛り在庫がどんどん増大する。
プル型:変動の低減ができていることが前提で、導入のハードルが高い。
CONWIP:最終工程で1個できたら、最初の工程に1個投入する仕組み
工場物理学は、複数工程を通過する中で、変動が起きたらどうなるのかを定式化している。 この式を導き出した学問。 待ち行列の応用。
在庫管理 では、変動が起きることを想定して、適性在庫の量を計算するが、似ている。 在庫管理は、倉庫の在庫を対象として、インプットとアウトプットだけを考えている。 工場物理学では、在庫の数だけでなく、処理の時間のばらつきも想定するので、式が複雑になっている。


ものづくりの科学 Factory Physicsと日本的アプローチ」 圓川隆夫 著 日本品質管理学会 品質 48(4) 2018
同著者の上記の本をさらにコンパクトにしています。


Factory Physics概要 工場統計力学(建設中!)」 CUSCUS 著 2007
https://cuscus.hatenadiary.org/entry/20070128/1169938386
上記の「Factory Physics」という本について、日本語で説明したものとしては、おそらく一番早いページです。


サプライチェーンサイエンス」 Wallace J. Hopp 著 近代科学社 2023
日本語版は2023年ですが、原著の初版は2007年です。約200ページの本です。
同著者の「Factory Physics」は、初版が1996年です。
Wallace J. Hopp氏は、工場の中を中心とした時には「Factory Physics」、 工場の外も含めた場合は「Supply Chain Science」という名前にして、それぞれについて、ほぼ同じ時期に本を作られたようです。 両者は、ばらつき、在庫、プル型といった、かなりの部分が共通になっています。「プルの魔法」のように、目次に同じ項目も見られます。 違いとしては、「Factory Physics」では、工場ならではのばらつきの話にも触れています。 「Supply Chain Science」では、他社とのネットワークの話があります。



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