トップページ | ひとつ上のページ | 目次ページ | このサイトについて | ENGLISH

自閉症スペクトラム

社会心理学 は、集団の心理を見ます。 一方で、自分と周囲の人や、他人同士の間で起こる事、また、それが発展して社会で起きる事などは、個人の心理の話です。

自閉症スペクトラムは、個人に何が起きているか、また、その対策を、「少しでも改善したい」という思いを抱きながら、深く研究されて来ています。

自閉症スペクトラム

2022年現在、自閉症は「自閉症スペクトラム」と呼ぶのが正確な言い方です。 しかし、文章が冗長になりますので、以下、このページで「自閉症」と書いている時は、 「自閉症スペクトラム」を略しています。

自閉症スペクトラムは、条件を限定することで症状を判断していた方法をやめ、発達に関わる複数の問題をセットにして考えています。 その代わり、各個人が、自閉症スペクトラムの中の、どの位置なのかを見ます。

自閉症スペクトラムは、その特徴となる状態の一部に当てはまると、「当てはまる」となってくる考え方をします。 医学的には、1〜10%くらいの人が当てはまるようです。 「ごく一部の人」などとは言っていられない割合と思います。

「自閉」という名前

「自閉症」という名前からは、心を閉ざしてしまう症状のように思えますが、この名前は、 この症状を持っている人に対しての、名前を付けた時期の見方によるところが大きいようです。

どちらかと言えば、「一つのことに対しての、こだわりが強い」、「五感から得る情報を強く感じる」、「想像的な考え方が苦手」といったことが特徴です。 「自閉」というのは、その特徴をこの症状がない人が見た時の見え方、と思うと良いようです。

自閉症スペクトラムが強く出ている人への支援

育児や教育

自閉症スペクトラムは、子供の発育の過程で、「なかなかしゃべらない」など、他の子供との違いとしてわかってくる場合があります。

その場合、「教育をどうしていくのか?」、となって来ます。 以前は、「愛情をそそぐ」、といった方法論しかなかったようですが、現在は増えています。

ひとつは、ABAのように、自然獲得が難しいことについて、積極的に介入して、発育を支援する方法です。

もうひとつは、行動の特徴の中で、社会的に見て良いところは、その人の「長所」と考えて、 それを伸ばす方法です。 これは、科学や文化の歴史の中の偉大な仕事の中に、自閉症スペクトラムの特徴的な行動から生まれたと考えられるものが数多くあるということも、 後押ししています。

社会づくり

「視覚障害のある人のために、わかりやすい色の配置にする。」、 「足に障害のある人のために、バリアフリーにする。」 といった環境を作るための取り組みは、以前から進められています。

自閉症スペクトラムのある人向けには、 周囲や対象を明確に認識しやすくすると良いので、視覚的な表現を工夫すると良いようです。

DTTの難しさ

ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析学)は、定型発達児が、特に意識しなくても日常生活の中で獲得できる能力を、 非定型発達児が獲得できるようにしていく方法になっています。

ところで「ABA = DTT」となって、解説されているいることが、よくあります。 DTTはABAのひとつの手法です。 DTTは、「Discrete Trial Traning(離散試行型指導法)」の略で、実験室のように整備した環境で、セラピストと一対一で対座して、特定の課題を身に付ける方法です。

DTTは、誰でも、簡単に、という訳には行かない難しさがあります。 自閉症スペクトラムの程度による難しさもありますが、それ以外が以下にあります。

施設環境で行うDTTの難しさ

家庭環境で行うDTTの難しさ

家庭環境は、施設で実施する場合の弱点を改善したり、施設と補完的な役割を担うことができます。 しかし、家庭環境の場合、以下の問題があります。

環境以外の難しさ

環境以外の難しさもあります。

ABAへの人工知能の貢献の可能性

上記のように、ABAには難しさがあります。社会的課題の一種と思います。

すでに、ABAにデータサイエンス人工知能(AI)を活用しようとする活動が進んでいます。

DTTの限界を超えるには(フリーオペラント法、など)

ABA
フリーオペラント法というのは、子供の行動を積極的に真似することが、スタートになります。 こうすると、子供にとっては、「自分の行動が認められた」、「自分の行動を見てくれている」という認識が高まったり、 「人と同じ動きをすると楽しい」という体験になる効果があるようです。 これによって、DTTでよく使われるような、お菓子やおもちゃのような不自然な強化子ではなく、周りの反応のような自然な強化子(多種多様で豊富にあり、あきることのない強化子!)が効果的に働くようになりやすいようです。 つまり、定型発達児の発育の仕方に、近付けて行きます。 自発的な行動をしにくい性格の子供が、自発的に自分を発達させる効果があるようです。

DTTのように、「大人の行動を真似させる」、「子供をコントロールする」というアプローチとは、真逆のような発想のアプローチですが、これも応用行動分析の実践方法の一種となっています。 自然に近い形、無理のない形で、介入し、療育につなげる方法と言えそうです。

東洋医学では、人が元々持っている体の仕組みに、他人が介入して、元々持っている仕組みが適切に機能するように導きますが、 フリーオペラント法には、それと似た印象があります。

「DIR」や「フロアタイム」と呼ばれる方法は、フリーオペラント法と原理的には同じようです。

PRTは、DTTとフリーオペラント法の中間のような方法のようです。

自閉症に東洋医学を応用

自閉症を持つ人は、行動が注目されがちですが、体の状態や使い方にも、特徴があるそうです。

東洋医学 には、体を良い状態に直す方法が昔からあります。 「緊張」などの、体と心が結び付いた状態を改善する方法もあります。 それを自閉症の特徴に活用すると、その人の抱えている壁のようなものが取れ、 「自然に発達しない・できない」という状況を変えるアプローチになります。

東洋医学は昔からありますし、自閉症も昔からありますが、「自閉症に東洋医学を活用」という発想は、21世紀になってからのようで、 とても有望な分野です。

自閉症の原因

筆者の調べた範囲では、自閉症の原因は感覚過敏ということのようです。 感覚過敏というのは、「味覚や触覚が一般的な人よりも強く感じる」、「目から入ったものから、多くの情報を取る」といったものです。

そうだとすれば、「感覚過敏になってしまう原因は何か?」という話になりますが、それはまだわからないようです。

ただ、そうはいっても、感覚過敏を原因と置くと、自閉症の症状や特徴のほとんどが、感覚過敏ということで説明がつくようです。

自閉症を治すとは

「自閉症を治す」ということで、行動を修正したり、行動の学習を支援する方法があります。 これはこれで必要ですが、このアプローチは原因ではなく、結果に対してのアプローチをしていたり、新しく獲得される結果に対してのアプローチになっています。

「感覚過敏」という原因に対しては、筆者の知る限りでは、東洋医学的なものがベストのようです。 感覚過敏という問題がなくなってくると、子供の場合は、もともと持っている学習機能が働きやすくなって、自然な成長をしやすくなるようです。

欲を言えば、感覚過敏の防止もできれば良いのですが、既に自閉症の症状が見えている子供にとっては、感覚過敏への対策をしつつ、 すでに獲得された行動にも対応していくのが、現実的な方法のようです。
自閉症の原因

「自閉症を治す」のアップデート

以下、このセクションは、筆者自身も自閉症が身近な中で、筆者自身も模索しながらのことを、言葉にまとめようとして書いています。 わかって来たのは、自閉症の有無に関係なく、相手が子供かどうかにも関係なく、筆者自身が周りの人に対して、どのように接したら良いのか、ということでした。

ABAの逆効果

自分を思い通りに動かそうとしてくる人に対して、「嫌な人」と思うのは、誰でも持つ感情ではないかと思います。

「プレゼント(お金や食べ物)をあげるから、これをやって」と言って来る人については、少し複雑で、「報酬がもらえてありがたい」と思う場合もあれば、 「何か渡せば、言いなりになると思っているのか」と嫌悪感が出る場合もあり、ケースバイケースです。

相手が子供だとしても、自閉症だとしても、こういった感情が起きてもおかしくないのですが、 そうとは知らずに「嫌な人」になってしまうことがあります。

ABAに一生懸命になっている時には、「私はこうしたい」が先行してしまい、「嫌な人」になってしまうことがあります。

否定と肯定の使い分け

「大声を出して暴れる」、「人に危害を加える」、「命の危険がある」、等が起きている中では、目の前で起きていることを止めることが最優先なので、 その行動を強く否定するような対応が必要なこともあります。

一方、長い目で見た時には、「本人の気持ちを汲み取る」といった肯定的な対応をするのが、良いと思っています。 なお、肯定と否定の使い分けは難しいです。 筆者の場合は、否定したい気持ちが先になることが多いので、心がけとしては、受け入れ難い事に対しても、できるだけ肯定する方向に考えて行くと良いようです。

「本人の気持ちを汲み取る」というのは、「本人のやりたいようにやらせる」や、「本人の言いなりになる」ではなく、 その行動をしている時の本人の気分や、その行動をしたがる理由について、「そのような感じ方、考え方もある」といったんは認めることです。 一度は、その段階に立たないと、支援の仕方がわからないです。 わからないと、本人の気持ちとは関係なく、世間一般のロールモデルを目標にして、それに合わさせるアプローチや、 「あの人は、これでうまく行った」という成功談の再現を目指すアプローチしか手がなくなってきます。

違う文化の中で育った人とは、物の見方や感じ方が違いますが、自閉症を持つ人に対しても、そのような心構えでいると良いようです。 「あの人と私は違う」ではなく、「あの人の幸福感を、自分の幸福感に取り入れる」くらいの考え方が良いのかもしれません。

「自閉症」の名前のように、自閉症を持つ人は、自分だけの過ごし方になりがちです。 それを否定するようなアプローチではなく、そこに共鳴していくことが第一歩のように筆者は今のところ考えています。 心理療法 にある「傾聴」は、会話ができる大人に対してのものとして話題になりますが、心構えとしては傾聴と似ています。 傾聴は、相手を"正しい"答えに誘導したり、"正しい"考え方を説得して身に着けさせるものではなく、 自分で自分を知り、自分で答えを見つけていくアプローチとして筆者は理解しています。



参考文献

自閉症へのデータサイエンスや人工知能の活用

ICTを活用した保護者エンパワメント療育モデルの実装と展開」 熊仁美 著
ABAの療育の支援にシステムを使っています。 セラピストの養成をするロボットの開発もしているそうです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/58/6/58_428/_pdf


ロボット技術による自閉症児教育への展望」 阿部絵里香 著
療育をするロボットが開発されているそうです。 目を合わせてコミュニケーションすることを覚えるために、目が合わないと動きが止まる機能があるそうです。
https://lab.kuas.ac.jp/~jinbungakkai/pdf/2014/p2014_01.pdf


応用行動分析と人工知能の協働」 松田壮一郎 著 日刊工業新聞社 2017
ABAの研究者が、人工知能を使った研究に踏み出されています。
人の動きの計測に、人工知能を使っています。
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/09/78-13-16.pdf


Autism, ABA, and Data Science」 Dipta Roy 著
自閉症のトレーニングを支援するロボットがいるそうです。
https://medium.com/analytics-vidhya/autism-aba-and-data-science-aa8487ae9d77


発達障害

生きづらいと思ったら親子で発達障害でした」 モンズースー 著 KADOKAWA 2016
ご自身の経験を元にされたマンガです。 いつ何が起きて、その時にどう思ったのか、ということを的確に覚えていらっしゃって、 それを素直に表現されていました。
「対策がわかりやすい」、ということもあるのですが、何よりも、本人の気持ちを描いてくださったことが、ありがたかったです。


発達障害の子の療育が全部わかる本」 原哲也 著 講談社 2011
療育の種類や制度などについて、幅広く紹介しています。 発達障害は、ASD(自閉症スペクトラム)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)の総称。 それぞれの対処法は異なるが、ひとりの人に2つ以上が並存することもある。


おうち療育をはじめよう!  発達障害がある子の会話力がぐんぐん伸びる」 柳下記子 著 野波ツナ漫画 講談社 2021
マンガを使って、わかりやすく説明しています。
例えば、あいさつでは、「こんにちは」と言うことまでできたらほめるのではなく、「あいさつをしようとした」、 「相手を見ることができた」、という点もほめることができる。 (この本では、ABAには触れていませんが、ABAの強化学習を細かくすることで、確実に学習を積み上げる考える方法になっているように思いました。)
感情や、やることを、一緒に絵にしてみることで、状況を把握する能力を身に着けていく。


自閉症スペクトラム全般

自閉症スペクトラムのおはなし」 安原昭博 監修 平凡社 2021
ふりがな付きで自閉症スペクトラムを持つの特徴や、日常生活をする時の工夫を理解できるように説明しています。


自閉症スペクトラムがよくわかる本」 本田秀夫 監修 講談社 2015
イラストや吹き出しを多用して、視覚的にわかりやすく説明しています。
自閉症スペクトラムを持つ人は、人口の10%。
自閉症になる原因と、家庭環境は無関係。 一方、自閉症の人に家庭環境に対応は大事。
自閉症には、一次的な問題と、二次的な問題がある。 一次的な問題は、発語やコミュニケーションの問題。 二次的な問題は、一次的な問題による、うつ、不安や緊張、PTSD、被害関係念慮。 二次的な問題は、支援で防げる。
できることを尊重する。できないことは無理にさせない。
肯定的な言葉を使って、子供に対策を見出させる。
指示は視覚的に伝える。
一方的な指示や命令ではなく、提案をして、子供と意見をすり合わせて、互いに納得できる結論を出す。


より自然なABA・汎化しやすいABA・逆模倣

広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)」 佐久間徹 著 二瓶社 2013
ABAは、研究室の中での研究から始まっています。 家庭で行う場合も、環境や条件をシンプルにして、効果が出やすくする方法が、よく紹介されています。DTTと呼ばれます。 そのため、好子にお菓子やおもちゃを使います。
フリーオペラント法は、そのような場面の設定では、実際の生活や社会で応用(汎化)が難しいことと、 発展性がないことの改善策になっています。
方法としては、定型発達ができる子供が、日常生活の中で自然に身に付けることができることについて、 その機会を増やすようにします。 また、その中で起きる問題行動などについては、行動分析を使って、随時、対応します。 「承認欲求」などと呼ばれますが、人は、他人に認められるとうれしくなります。 これを好子になるようにします。 そのための方法として、できるだけ、子供の行動を大人が真似る方法があります。 大人が真似ることで、子供は、自分の行動が認められたことを知り、それが、新しい行動を始めようとする原動力になります


発達障害児の言語獲得 応用行動分析的支援〈フリーオペラント法〉」 石原幸子・佐久間徹 著 二瓶社 2015
主に一人の発達障害児について、佐久間先生のグループがどのように支援を進めたのかについて、毎回の内容の記録集と、 それに関連した佐久間先生の語録集になっています。
基本的には、子供の発声や動作をそのままセラピストが模倣します。 発語を訂正したり、発語を促したりはしません。


自閉スペクトラム症 「発達障害」最新の理解と治療革命」 岡田尊司 著 幻冬舎 2020
自閉症の原因の様々な仮説と、様々な治療法がコンパクトにまとまっています。
ABAやTEACCHよりも、新しく、効果が見られている方法として、カウフマン夫妻によるものを詳しく説明しています。 ポイントのひとつめが、自閉症児が繰り返し行動を始めたら、周りの人も同じ行動をすることで、関心の共有をします。 2つめが、目の高さを合わせたり、自分の顔の近くに自閉症児の興味のあるものを置くことで、目が合う機会を増やします。 目が合うことができるようになると、コミュニケーションができるようになってくるそうです。
カウフマン夫妻が療育の素人であることに対して、DIR理論は療育の専門家が考案したものですが、 DIR理論は、自閉症児と周りの人が目線を合わせたやりとりがポイントになっており、ほとんんど同じ、とのことでした。
この本では、愛着障害が原因の場合にも触れていて、その場合は親を支援することになります。
大人の自閉症の治療法にも触れていて、大人の場合は、自分を客観的に見て、物事の見方を変えて行く方法でした。


自閉症のDIR治療プログラム フロアタイムによる発達の促し」  S.グリーンスパン・S.ウィーダー 著 創元社 2009
DIRは、人の発達の過程をプログラムとして想定して、その人の現在地を把握し、次の段階に導いていくもの、と理解すれば良いのかもしれません。
副題の「フロアタイム」というのは、自閉症の人と同じ目線で、その人と関わるものです。 DIRの中心になっています。
応用行動分析学(ABA) では、人の行動を事実の関係を明らかにするアプローチで把握します。 DIRは、その時の気持ちや、心の動きがどのようになっているのかについて、仮説を立て、その仮説から改善や解決の方法を考えます。 その時に、人の発達の過程のプログラムを参照して、方針を決めて行くようになっています。
人の気持ちを考える時に、その人の外からではなく、その人と同じ行動をして、同じ立場に身を置くようにするのが、的確に把握するポイントのようです。


笑顔がはじけるスパーク運動療育 発達障害の子の脳をきたえる」 清水貴子 著 小学館 2016
スパーク運動療育というのは、運動によって発達を促進する方法です。 この本は、発達障害児の療育にも、スパーク運動療育が効果的ということで紹介しています。
この本では、「運動することが効果的」という説明の仕方をしているのですが、よくよく読んでいると、スパーク運動療育というのは、 子供に自由に行動させて、大人がそれに合わせる運動になっています。 大人の方から提案したり、場を盛り上げたり、ということも少しはあるのですが、自発的な行動を重視しています。 そのため、「運動することが効果的」というのもありますが、「子供の主体的な行動を大人が模倣する状況を作ることが効果的」ということが大きいように思いました。 その意味で、スパーク運動療育というのは、フリーオペラント法と、とても似ていました。


ABA(DTT)

イラストでわかる ABA実践マニュアル 発達障害の子のやる気を引き出す行動療法」  藤坂龍司・松井絵理子 著 合同出版 201
ABAの基本的な考え方から始まり、初級、中級、上級の具体的な課題をイラストを使って、わかりやすく説明しています。
ABAは、人間の行動は、強化、消去、罰によって学習されるものと考え、これらを使って、 言葉や行動を日常生活の中で自然に学習することが難しい子供に、学習を進めます。
問題行動の原因は、過去に何らかの強化があったと考えます。 問題行動の改善にも、強化、消去、罰を使います。


ABAプログラムハンドブック 自閉症を抱える子どものための体系的療育法」  J.タイラー・フォーベル 著 明石書店 2012
ABAを実施する時の実例集ではなく、計画の立て方や、考え方を体系的にガイドしています。
この本は、家庭環境の中で親がその子供に対してではなく、施設などの環境で、トレーナーが子供に対してABAを実施する状況が想定されていて、 トレーナーやトレーナーを目指す人向けの本になっています。


自閉症・発達障害を疑われたとき・疑ったとき 不安を笑顔へ変える乳幼児期のLST」  平岩幹男 著 合同出版 2015
小児科医の立場で診療されている方が著者です。医学的な説明があります。 療育の具体的な手法としてはABAを中心とされているそうですが、子供と「つながる」時間を多くすることを特に重視されていらっしゃいました。
ABAの概要が約6ページでまとまっています。
DTT(不連続試行法):ABAの初期からある方法。対面でのトレーニング。
VB(行動言語):言語機能を行動変容に応用する。マンド(要求語)を引き出すから始め、応答につなげる。
NET(自然環境訓練):日常の現実の中で、遭遇する場面の訓練
PRT(機軸反応訓練、機会利用型訓練):日常生活の中で、望ましい行動を増やす。
水銀説は、「予防接種ワクチンの使用開始時期と自閉症の増加時期が一致するのではないか」という論文が始まりとのことです。 その後に、水銀を原因とする説が出ましたが、その論文は、その後に撤回されたそうです。 アメリカや日本の小児科学会も、水銀説と、その対策としてのキレート療法には科学的根拠が乏しいとしているそうです。


アスペルガー症候群治療の現場から」 宮尾益知 監修 出版館ブック・クラブ 2009
栄養や薬物なども含め、様々な治療法が仮説の物も含め、幅広く紹介されています。
フロアタイムは、誰でもどこでもできるものなので、ABAやTEACCHを補完するものとして紹介されています。


発達の気になる子の「困った」を「できる」に変えるABAトレーニング」 小笠原恵・加藤慎吾 著 ナツメ社 2019
自閉症の有無に関わらず、ABAを活用していく内容になっています。 対象は、日常的なことは大体できるようになっている段階の子供です。
状況→行動→結果の関係がどのようになっているのかを分析して、好ましくない行動を減らしたり、好ましい行動を増やしていきます。


自閉症スペクトラムのある人の教育

ASD<自閉症スペクトラム障害>、ADHD、LD 入園・入学前までに気づいて支援する本」 宮尾益知 監修 河出書房新社 2019
自閉症スペクトラムの他に、ADHD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)を合わせて、発達障害として説明しています。 これらの障害があることに気付くためのポイントの話が多めです。
ほめ方、しかり方、のポイントもあります。


ASD<自閉症スペクトラム障害>、ADHD、LD発達障害の子どもが持っている長所に気づいて、伸ばす本 」 宮尾益知 監修 河出書房新社 2020
発達障害の子供が持つ、感覚の強さや、集中力、表現の明確さを長所と考え、それを伸ばすためのほめ方、しかり方を説明しています。


自閉症スペクトラムのある人の教育(特に発語)

自閉症とことばの成り立ち 関係発達臨床からみた原初的コミュニケーションの世界」 小林隆児 著 ミネルヴァ書房 2004
自閉症によるコミュニケーションの問題の解決は、自閉症の当事者に対するものだけが検討されて来ているが、 コミュニケーションは双方によって成り立つものなので、当事者だけでは偏っているとしています。
また、大人の物の見方、言葉を使ってコミュニケーションができる人の物の見方を前提として、それを伝えることが自閉症を持つ子供への教育とする考え方が、 定着しているが、その考え方には根本的な問題があるとしています。
著者は、子供の興味や関心がどこにあるのかを大人の側が理解して、その場で適切なことばを使って行くことで、言語によるコミュニケーション能力の発達を促すあり方を提唱しています。
また、自閉症があると感覚が異なるため、何を感じ取っているのかがわかりにくいことや、発せられた言葉の内容を大人の物の考え方で理解しようとすることになることも、自閉症児とのコミュニケーションの難しさとしています。
著者は、自閉症児の興味や関心の把握の仕方や、言語教育のあり方の研究も進めています。
感覚が強いと、常に様々な情報が入って来て、安心感がない。 外界に対して警戒心を持っている。 それがコミュニケーションを積極的に行わないことにもつながる。 甘えたくても甘えられない状況になる。 自閉症があると、ひとつの物に見入ってしまう行動になるのは、安心感を得るため。
子供の行動に親が声をかけると、子供にはその行動が際立ったものになる。


図解やさしくわかる言語聴覚障害」 小嶋知幸 編著 ナツメ社 2016
大人と子供で言語障害を分け、その中でさらに原因別に分けています。
自閉症児については、言葉の質的な理解が難しいことに対して、あいまいな表現を避けることや、筋道のわかる表現を使うといった支援が説明されています。


ことばの遅れが気になるなら 接し方で子どもは変わる」 古荘純一 監修 講談社 2021
発語は、脳や体の様々な部分が関係して始まるので、口の訓練のような発語の部分だけに注目するのではなく 子供の自発的な行動が多くなるようにしたり、それに親が一緒に関わっていくことの方を重視しています。
この本は、障害の有無に関わらず、子供の発語に必要なことが全体的な内容になっています。
聴覚や自閉症などによる障害がある場合について、それぞれ専門家に相談しながらということで、少し触れられています。


ことばの発達が気になる子どもの相談室 コミュニケーションの土台をつくる関わりと支援」 村上由美 著 明石書店 2015
著者は、ご自身がことばの発達が遅いということで、親御さんがご尽力され、それもあって言語聴覚士になられたという経歴をお持ちです。
ことばは話せるものの、内容が伝わらない、内容が噛み合わない、といった場合へのアドバイスがまとまっています。


自閉症スペクトラムを持つ人に適した環境

自閉症スペクトラムのある子を理解して育てる本 」  田中哲・藤原里美 監修 学研プラス 2016
自閉症スペクトラムのある7才くらいまでの子供について、家庭でのふだんの接し方や、問題行動が起きた時の考え方が詳しいです。
人とのコミュニケーションが苦手、自分なりのこだわりがある、初めてのことには不安を感じる、急に予定が変わると腹が立つ、 といういうことは、大小はあっても誰にでも心当たりがあるもの。そのため、自閉症スペクトラムの有無の線引きは難しい。 重要なのは、日常生活に支障をきたすほどになっているかどうかで、 自閉症スペクトラムの特性があっても、周囲の理解や環境が整っていれば、その特性による問題が起きないこともある。


自閉症スペクトラム児の教育と支援 」 樋口一宗・丹野哲也 監修 東洋館出版社 2014
自閉症を持つ人の特徴や状態について理解を深め、その上で学校での指導や支援をしていく方法の本です。


知的障害・自閉症のある人への行動障害支援に役立つアイデア集65例」 林大輔 著 中央法規出版 2020
行動障害のある人の施設にいる支援者の方が、施設での具体的な支援のコツをまとめています。 支援者同士の連携の仕方の話も多いです。
「ダメ!」、「違う!」、「〜じゃない!」は、強い反発を生むNGワード。
パニックの対応は、「向かい合う」より「隣り合う」
パニックの発生パターンと、収束パターンを把握する。


自閉症スペクトラムの子どもたちをサポートする本 理解を深め、支援する」 榊原洋一 著 2017
前半の約70ページが自閉症スペクトラムの特徴で、後半の約100ページが、家庭、学校、社会でのサポートの仕方や、サポートの受け方です。


自閉症児のためのTEACCHハンドブック 」 佐々木正美 著 学研 2008
TEACCH、は自閉症者の学習や仕事の環境を整えるこで、自閉症者を支援するためのガイドになっています。
ポイントは、目的や手順を、目で見てわかるようにすることで、「構造化」と呼ばれています。


TEACCHプログラムによる日本の自閉症療育」 小林信篤 編著 学研 2008
TEACCHの実践例について、約10ページずつで、たくさんの方が執筆されています。


自閉症スペクトラムの症状と原因の研究

心をとらえるフレームワークの展開  認知科学講座 4」 横澤一彦 編 東京大学出版会 2022
Karl J. Friston氏による自由エネルギー原理の理論が、自閉症の症状を説明するものになっています。
自由エネルギー原理:信念の更新は、ベイズ更新のモデルが起きるが、これを起こすのが自由エネルギーの最小化の原理。 情報の不確実性を解消するように作用する。注意するようになっても、信念の更新が起こる。
一般的には、感覚信号に対して、予測誤差が小さくなるように信念の更新が進み、落ち着いて行く。 ところが、感覚信号の方が、予測信号よりも精度が高い状態が続くと、常に更新が起こる。
自閉症スペクトラムのモデルとして、この更新が常に起こっている状態が考えられている。 これによって、抽象的な表現の獲得が苦手、見慣れた環境を好む、慢性的にストレスが高い、という自閉症スペクトラムの特徴を説明できるとしている。


自閉症」 村田豊久 著 日本評論社 2016
1980年の初版に、いくつかの補足説明を付けたものです。
自閉症の根本原因は言語能力の弱さで、社会的な対応力の弱さはその結果のひとつ、とする学説が、強かった時期があったそうです。
現在のDSM-5という基準は、5,6才まで何も対策をして来なかった子供向けで、2,3才から療育を始めた子供だと、 自閉症ではない、という結果にもなるものになっているので、適切な基準の設定が必要。


自閉症の世界 多様性に満ちた内面の真実」 スティーブ・シルバーマン 著 講談社 2017
自閉症の研究の歴史の大著です。600ページくらいあります。
訳者のあとがきに、自閉症者は、他人の気持ちを理解する能力に欠ける、他者に共感することができにくい、という理解は、 自閉症ではない人の偏見、と訳者は考えているそうです。 自閉症者同士の日常的なやりとりが、生き生きとしていることから考えると、偏見が起きる原因は、自閉症者と、非自閉症者の感性の違いにあるそうです。
自閉症者の感性を理解し、社会を改善していくことの重要さを説明しています。


自閉症スペクトラムと社会や文化との関係の研究

自閉症という知性」 池上英子 著 NHK出版 2019
自閉症のある4人の個人について、それぞれに合ったやり方で進めた 質的社会調査 が元になっています。 自閉症のある人は、コミュニケーションが苦手であったり、物の感じ方が強かったりするので、 その人に取って一番コミュニケーションの取りやすい環境に、著者が入る形で調査を進めたそうです。
自閉症の症状には人によって違いがありますが、言葉で考えるよりも絵で考える方が得意であったり、 五感のひとつで感じたものを別の感覚として認識することが得意なことがあったりします。 自閉症が「自閉」と呼ばれるようなマイナスの側面ではなく、プラスの側面に特に着目していました。


「自閉症」の時代 」 竹中均 著 講談社 2020
文化の歴史を見ると、突出したデザインや発明には、自閉症の症状から生まれて来たように見えるものが数多くあることを説明しています。


<自閉症学>のすすめ オーティズム・スタディーズの時代」 野尻英一・高瀬堅吉・松本卓也 編著 ミネルヴァ書房 2019
自閉症を、心理学、精神病理学、哲学、文化人類学、社会学、法律、文学、生物学、認知科学のそれぞれの立場で、 どのように捉え行けば良いのか、という考察をしています。
それぞれの分野の専門家の方が、その分野との接点になる部分を見つけて論考しているのですが、 一部の方は、ご自身のお子さんが自閉症で、そのお子さんの事を書かれていました。 その部分については、〇〇学の専門家、というより、親としての視点になっていて、その二面性が、 自閉症との向き合い方の大事な視点でもあるように思いました。


人間の脳の仕組み

メカ屋のための脳科学入門 記憶・学習/意識編」 高橋宏知 著 日刊工業新聞社 2017
記憶や学習と、脳の仕組みの関係についての本です。
自閉症についての話があり、自閉症の特徴に言語の模倣が困難であることから、ミラーニューロンの異常と考えられることや、 自閉症の早期発見に心の理論を応用する話があります。


東洋医学による自閉症の改善

自閉症は漢方でよくなる 記憶・学習/意識編」  飯田誠 著 講談社 2010
自閉症の直接的な原因を緊張の高さと考え、それを緩和する薬として、大柴胡湯が効く、としています。
人によっては、大柴胡湯以外の胡湯を処方することもあります。
緊張の高さの原因としては、感覚過敏を挙げています。
・自閉症とADHDには似ているところがあり、判断を間違えた事例がよくある。 ADHDには、特効薬がある。 自閉症の薬として発表されたものを著者は片端から試したが、効果のあるものはない。 著者は、緊張を緩和する薬が自閉症に効くと考えていて、それにぴったりだったのが、大柴胡湯。 大柴胡湯は、たまたま違う目的で処方した時に、効果に気付いた。
・大柴胡湯の効果は、大人でもあり、緊張の緩和で日常生活が楽になり、問題行動が改善する。 発達の遅さを正常に近くして、発達が進むようになるのは、幼児から処方を始めた場合。


療育整体 勝手に発達する身体を育てよう!」  松島眞一  著 花風社 2023
発達障害のある人を観察した時に、血流が悪い、体が硬い、姿勢が悪い、という特徴があることに気付き、 整体の方法でそれを直すことで、発達障害と言われる問題が改善した経験に基づいています。
専門家でなければできない施術では、継続が難しいので、誰でも簡単にできる方法を開発されています。 縦巻き横巻きの法則も取り入れられています。
皮膚に刺激を与えることから、心と体にアプローチしています。


順路 次は 人の質的研究

Tweet データサイエンス教室